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コロナ禍の歌詠み

更新日:2021年6月9日

世界史に深く刻まれる2020年のコロナ禍。

日本中の「戦争を知らない子供達(北山修)」が初めて国家を体現させられた事態でもある。これほどの世界規模でロックダウンが進行していく様を目の当たりにして、この世界を記録・記憶し記述すべきと思うのは私だけではあるまい。最前線に立たされた方々には傍観者の感想だとお叱りを受けるでしょうが、短歌で歌詠人の真似事をしている小生も詠まずに居れない不安や不穏、空気を今を生きている身から吐露させてもらう。コロナ歌。


□朝が来て変わらぬ空を染め上げる生き延びて見る空は青いか

□億年も宿主探し彷徨いて全能は誰教えるために

□だがしかしもしもの話終わらない世界の今が消えて無くなる

□記述せよ世紀に深く刻まれた地滑りのよう時代の裂け目

□人間がいない地球の物語最後を看取る眼差しも無く

□あの日から壁に張り付き息を止め誰もわからぬ結末を書く

□だとすれば風を背にして舵を切る逃れるために渚を目指せ 

□瑕疵ありと悔やみ蔑み吊るされる自然の裁き人間だけが    

□知らぬまに夢のつづきは断ち切られいつもの朝が来ることもなく 

□手招きの見知らぬ影に付いてゆく命の代わり差し出せと言う

□だから今こうして空に憧れて羊のように泣いているのだ

□目覚めると眩しくまぶた射るひかりガラスの肺を満たしておくれ

□水面に顔だけ出した僕たちの呼吸の泡が浮かんでは消え

□午前4時つかえた胸の雨だれがみぞおち深く沈むのを見た 

□結末を呪文のように聞いてくる生きているのか死んでいるのか

□いつまでもまとわりついて離れないマスクで隠す笑みも怒りも

□かすれゆく視界の隅に見え隠れシュノーケルから吐く泡にみえ  

□身を潜め寄生の罠をやり過ごす今度出会えば取り憑くされる

□悟られず擬態の森にうずくまる振り向きざまにウイルスの舌

□奴はもう人のかたちで浸み込んで私を名乗る指図通りに    

□地上からモールス信号打ち止まず応えるはずの明日が途切れて   

□息を継ぎ満たした肺で浮き沈み水面目指すチューブの中で

□眠れない喉に住みつく誘蛾灯(ゆうがとう)夜を沈めて息さえ出来ず

□先にゆく夜の渇きに吸い取られ手なずけられたお前を置いて

□前触れか赤一色の自画像に赤月溶かし塗り付けた紅

□立ち眩みかざす手のひら逆光に得体の知れぬ黒点が舞う

□肺呼吸開いた胸が透けて見えオブラートの膜浄化されずに

□寄る辺なく世界の隅でうずくまる忘れ去られて影さえ出来ず

□気づかずに途切れた日々を生きている明日来ぬ代わり繰り返す今日

□もう今は葉擦れが知らす前触れを聞こえぬふりでやり過ごすしか

□今宵また脈打ちうねるゴム製の肺とは知らず抱いて寝る夜

□違いない千年経っても同じことそうとは知らず明日を夢見た

□手探りで荊棘(いばら)集めて夜を編むためらい傷に許しを請うた

□海の底淡き憧れ抱きしめて潜んでおれば病むこともなく

□本当に終わりなのかとのぞき込む幕切れの無い夜がそこまで


 
 
 

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