top of page

トルソ

頭部や手足のない「胴体」という意のトルソ[torso]。古代ギリシア・ローマ時代の彫刻、建造物がルネサンス期に数多く発掘されたが、その多くは腕や手足などが欠けた不完全な状態であった。が、その未完のままの造形に魅了され優れた造形美を見い出した当時の芸術家たちは、それを人間復興の模範とし大いに想像力をかき立てられた。

発掘による破損、欠損であり、意図しない偶然にもかかわらず、その完成度は圧倒的です。

内面を最も外部に発露する顔・表情が無くとも胴体だけで強烈な存在感を持ち、しかも部分が全体を連想させるからではなく部分そのもので完成しているトルソ。もし『ベルベデーレのトルソ(紀元前1世紀の大理石彫刻)』や『サモトラケのミケ(紀元前190年頃・発見は19世紀)』に頭部や顔の表情や両手を付け足しても陳腐さが付きまとうだけだろう。いわば部分が全体を纏(まと)い凝縮され昇華した存在。切り取られた存在だけで成立するトルソには別の美学があるとしか言いようがない明確な主題を放つ迫力がある。

そしてこのトルソに際立った特別な感動を覚えるのは、朽ち果てた滅びの美学などは突き抜けて、否応なくそこに精神性を見出してしまうからではないか。漆黒の闇から浮かび上がる精神の「かたち」とはこの事かと思わせるからではないかと思っている。

 
 
 

最新記事

すべて表示
コロナ禍の歌詠み

世界史に深く刻まれる2020年のコロナ禍。 日本中の「戦争を知らない子供達(北山修)」が初めて国家を体現させられた事態でもある。これほどの世界規模でロックダウンが進行していく様を目の当たりにして、この世界を記録・記憶し記述すべきと思うのは私だけではあるまい。最前線に立たされ...

 
 
 
謎解き人

宝石のような言葉・文章に出会う事がある。 もっとも学識、読書量の劣る身には星の数ほどある書物との出会いの中で、それは隕石に当たる程の奇跡的出来事であるに違いない。人生を変えうる程の言葉や知識や智恵で世界は溢れているはずなのに、知らないだけなのである。たまたま出会った澁澤龍彦...

 
 
 
マニエリスムの時代

マンネリズムという不名誉な名で永くルネサンスの模倣の時代として評価されてこなかった1520年頃から16世紀末の美術・建築様式。「創造性を失った芸術」と言われたそうで、人体表現では体を無理に引き伸ばして誇張したり、不均衡な構図や派手な色使いなどルネサンスの理想とは縁遠い物とし...

 
 
 

Comentários


2018.8 Mezzotint考 Copper engraving        2021.7 tsui no tanka

bottom of page