トルソ
- ミキ ヤストシ
- 2020年1月11日
- 読了時間: 2分
頭部や手足のない「胴体」という意のトルソ[torso]。古代ギリシア・ローマ時代の彫刻、建造物がルネサンス期に数多く発掘されたが、その多くは腕や手足などが欠けた不完全な状態であった。が、その未完のままの造形に魅了され優れた造形美を見い出した当時の芸術家たちは、それを人間復興の模範とし大いに想像力をかき立てられた。
発掘による破損、欠損であり、意図しない偶然にもかかわらず、その完成度は圧倒的です。
内面を最も外部に発露する顔・表情が無くとも胴体だけで強烈な存在感を持ち、しかも部分が全体を連想させるからではなく部分そのもので完成しているトルソ。もし『ベルベデーレのトルソ(紀元前1世紀の大理石彫刻)』や『サモトラケのミケ(紀元前190年頃・発見は19世紀)』に頭部や顔の表情や両手を付け足しても陳腐さが付きまとうだけだろう。いわば部分が全体を纏(まと)い凝縮され昇華した存在。切り取られた存在だけで成立するトルソには別の美学があるとしか言いようがない明確な主題を放つ迫力がある。
そしてこのトルソに際立った特別な感動を覚えるのは、朽ち果てた滅びの美学などは突き抜けて、否応なくそこに精神性を見出してしまうからではないか。漆黒の闇から浮かび上がる精神の「かたち」とはこの事かと思わせるからではないかと思っている。
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