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謎解き人

更新日:2019年11月7日

宝石のような言葉・文章に出会う事がある。

もっとも学識、読書量の劣る身には星の数ほどある書物との出会いの中で、それは隕石に当たる程の奇跡的出来事であるに違いない。人生を変えうる程の言葉や知識や智恵で世界は溢れているはずなのに、知らないだけなのである。たまたま出会った澁澤龍彦(1928年-1987年)の画家ルネ・マグリット(1898年-1967年)についての論考がある。

「マグリットのタブローにみなぎった不思議な静謐の印象は、あえて言えば、時間がぴたりと停止し、すべての物体が物体同士の親しい有機的な関連を失い、意味のある生きた自然が無意味なばらばらな自然と化する一瞬の、ほとんど永遠のそれに似た、おそるべき静けさの印象である。たとえば世界の終りの日にも、いつもと少しも変らず、あんなに晴れ晴れとした青空に、あんなに白い雲が浮かんでいるのかもしれない、と私たちは思ってしまう。そんな永遠の青空や白い雲を、マグリットは好んで描くのである。しかもこの永遠の青空は、まさに世界の終りの日であるが故に、一瞬にして消えるかもしれない虚無をはらんでいるのだ。(幻想の画廊から)」

マグリットの「大家族(海岸の水平線に巨大な鳥が翼を広げ空の雲と一体化した様な)」という有名な絵が浮かんでくるが、今までのシュールレアリズムの解釈にはない文学者として捉え直した名文と言うだけでなく、ここには世界の意味を知ろうとする意思で満ち溢れた感性が、永遠や一瞬を眼前に捉えてイメージしてくれたという感動があるのです。一枚の絵から(マグリットが意図したか否かでは無く)生まれる世界の謎の手掛かりを言葉に依って表現する「謎解き人」としての渋澤文学の凄さに改めて敬服した次第です。

 
 
 

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